
健康経営戦略マップの具体的な作成手順とは
近年、企業における健康経営の重要性が高まり、従業員の健康増進が生産性や企業価値の向上に寄与することが認識されています。その中で、健康経営戦略マップは、企業が健康経営を効果的に推進するための指針となるツールとなっています。本記事では、健康経営戦略マップの基本概念から作成のメリット、準備手順について詳しく解説します。
目次[非表示]
- 1.健康経営戦略マップの基本理解
- 1.1.健康経営戦略マップとは
- 1.2.健康投資管理会計と健康経営戦略マップの関係
- 1.3.健康経営戦略マップ作成のメリットとは
- 2.健康経営戦略マップの作成準備
- 2.1.従業員の健康状態の把握
- 2.2.既存データの分析
- 3.健康経営戦略マップで重要な設定事項
- 3.1.健康経営で解決したい経営課題の設定
- 3.2.健康関連の最終的な目標指標の設定
- 3.3.従業員の意識・行動変容に関する指標の設定
- 3.4.健康投資の取り組み状況に関する指標の設定
- 3.5.健康投資(取り組み内容)の設定
- 4.健康経営戦略マップ作成のポイントとは
- 5.健康経営戦略マップ作成の具体例
- 5.1.健康経営戦略マップをダウンロード
健康経営戦略マップの基本理解
健康経営戦略マップとは
健康経営戦略マップとは、企業が健康経営を戦略的に推進するためのロードマップであり、健康への投資とその成果を可視化するフレームワークです。これにより、経営層や人事・総務担当者が従業員の健康と企業の成長を両立するための施策を整理しやすくなります。
健康投資管理会計と健康経営戦略マップの関係
健康投資管理会計とは、従業員の健康の保持・増進のために実施する活動を効率的かつ効果的に推進するための仕組みのことです。健康投資管理会計を作成する際、経済産業省は「健康経営戦略マップ」「健康投資シート」「健康投資効果シート」「健康資源シート」の4つのシートを作成することをお勧めしております。健康経営戦略マップは、健康投資管理会計ガイドラインで示された4つの重要なドキュメントのうちの一つです。
健康投資管理会計は、以下の要素で構成されています。
-
健康投資:
従業員の健康維持・増進のために行う施策や制度(例:健康診断の実施、休暇制度・健康管理システムの導入、メンタルヘルス研修の実施など)。
-
健康投資効果(フロー):
健康投資による短期的な成果(例:セミナー参加率の上昇、残量時間の削減など)。
-
健康資源(ストック):
人的健康資源(例:残業時間、睡眠時間、メンタルヘルス研修参加者数、ワーク・エンゲージメントなど)や、環境健康資源(健康経営に関する理念、健康経営に対する経営者・役員のコミットメントなど)。
-
企業価値:
健康経営の推進による従業員エンゲージメントの向上、業績向上。
-
社会的価値:
企業が健康経営を通じて社会全体に与える影響(例:退職した従業員が高いQOLを維持することなど)。
-
健康経営で解決したい課題:
健康投資をすることで改善したい事柄(例:不健康や疾病による生産性低下の防止など)。
参考資料:健康投資管理会計 実践ハンドブック(Web閲覧用:見開き)
健康経営戦略マップ作成のメリットとは
現状課題の整理
健康経営戦略マップを作成すると、従業員の健康課題や組織の健康文化の問題点を整理できます。
健康経営の目的と目標の明確化
健康経営の目的を明確にし、目指す成果を具体化することで、経営層と従業員の連携強化も期待されます。
改善指標の見える化
健康経営の進捗を評価するためのKPI(Key Performance Indicator)を設定しやすくなり、施策の効果が可視化できるようになります。これにより、PDCAサイクルが回しやすくなり、健康経営も推進しやすくなるでしょう。
具体的な施策やアクションプランの整理
マップを作成することで、健康経営の各施策を体系的に整理し、実行可能なアクションプランを策定できます。健康経営度調査では、健康経営マップに関する設問があるため、健康経営優良法人認定を目指す企業にとっては不可欠です。
健康経営戦略マップの作成準備
従業員の健康状態の把握
健康経営を推進するためには、まず従業員の健康状態を正しく把握することが不可欠です。具体的には、健康診断結果、ストレスチェックのデータ、欠勤・休職の状況、従業員アンケートなどを活用し、現状の健康課題を洗い出します。特に、生活習慣病リスクやメンタルヘルスの問題など、企業の生産性に影響を及ぼす要因を特定することが求められます。
既存データの分析
収集したデータを基に、従業員の健康課題と業務パフォーマンスの関係を分析します。具体的には、
- 健康診断結果と欠勤率の関係
- ストレスチェック結果とエンゲージメントスコアの相関
- 職場環境要因と従業員のモチベーションの関係
といったデータを活用し、どの健康課題が経営に影響を与えているかを明確にします。
健康経営戦略マップで重要な設定事項
健康経営で解決したい経営課題の設定
健康経営の目的は、福利厚生ではなく、企業の経営課題の解決につなげることです。例えば、「社員のパフォーマンスの向上」といった経営課題を設定します。健康経営で解決したい経営課題を明確にすることで健康経営に関わる施策がスムーズに進み、期待した効果が得られるようになります。
健康関連の最終的な目標指標の設定
経営課題に直結する健康関連の指標を「最終的な目標指標」として設定します。例えば、パフォーマンス向上が課題なら、「身体的な不調の予防」「精神的な不調の予防」「従業員エンゲージメント率の向上」などが考えられます。同じ課題でも、企業の状況によって目標指標は異なるため、慎重に議論して決めることが重要です。
例
- 肥満や血圧、血糖値、要受診 者率者等の身体的指標
- 生活満足度やストレス反応、セ ルフエフィカシー等の心理的指標
- アブセンティーイズムやプレゼン ティーイズム、ワーク・エンゲイジメ ント、離職率、昇進率等の就業 関係指標
従業員の意識・行動変容に関する指標の設定
健康投資施策の成果を測るために、従業員の意識や行動の変化を指標化します。例えば、社内のセミナーに参加したことがきっかけで、食生活や運動習慣の改善に繋がったなど、意識や行動に関連する指標を指します。
例
- 施策参加者個人や組織全体の理解度
- 健康メニューの選択率
- 運動等の継続率
- 保健指導の継続率
- 再検・精検の受診率
- 有休取得日数
- 飲酒や運動等の習慣
健康投資の取り組み状況に関する指標の設定
企業が従業員の健康を支援するために行っている活動や施策の進捗や効果を測るための指標です。これらの指標は、企業が健康経営にどれだけ積極的に取り組んでいるか、またその投資がどの程度従業員の健康改善に寄与しているかを評価するために使用されます。健康経営の成果を最大化するためには、具体的な取り組み状況も評価する必要があります。
例
- セミナー実施数・参加率
- ストレスチェックの受検率
- 産業医・保健師との面談実施率 など
健康投資(取り組み内容)の設定
健康投資の取り組み状況に関する指標を考える上で、実施する施策について決めていきます。
例
- 健康セミナーの実施
- フィットネスプログラムの提供ストレスマネジメント研修の実施
- 社内健康アプリの導入 など
といった具体的な施策を計画します。
健康経営戦略マップ作成のポイントとは
最終的なゴールから逆算した健康投資の設定
経営課題や長期的な目標を明確にした上で、それを達成するために必要な健康投資を見極めるというアプローチです。多くの企業では、健康投資を先に設定してしまいがちですが、健康経営戦略を成功させるためには、まず最終的なゴール(経営課題解決)を設定することが不可欠です。なぜなら、経営課題に直結した施策を講じることで、経営者・各関係部署への協力も得ることができ、効果が最大化できるからです。このように、健康投資の設定は、企業の全体戦略と一致させ、より効果的に施策を展開するための基盤となります。
アウトプットやパフォーマンスとその後の結果を区分する
健康経営の施策効果を評価する際には、従業員の「行動(アウトプットとパフォーマンス)」と「その後の結果」を分けて考えることも一案として考えられます。
1.従業員の行動(アウトプットとパフォーマンス)
ここは企業側の施策によって変化を促しやすい部分です。
例:
- 社内運動イベントへの参加→朝のラジオ体操やウォーキングの習慣化割合の増加
- 社内カフェテリアでの健康メニューの選択
- ストレスマネジメント研修の受講 など
2.その後の結果(アウトカム)
これは従業員の行動が変わった後の成果として現れるもので、施策の効果が間接的に影響する部分です。
例:
- 健康診断の数値改善(BMIの適正化、血圧の安定など)
- メンタルヘルスの改善(ストレス低減、離職率の低下)
- 生産性の向上(集中力の向上、業務効率の改善)
アウトプットやパフォーマンスを短期的な指標とし、アウトカム(結果)を中長期的な指標とすることで、施策の効果測定がしやすくなります。
健康経営戦略マップ作成の具体例
WellWaで作成した健康経営戦略マップのサンプル
健康経営戦略マップをダウンロード
以下のリンクからダウンロードし、自社の課題に合わせてカスタマイズしてください。
健康経営戦略マップをダウンロードする
出典:経済産業省 健康投資管理会計作成準備作業用フォーマット