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ウェルビーイング経営と人的資本開示の関係とは?開示項目・KPI設計・実践事例まで徹底解説


目次[非表示]

  1. 1.人的資本開示とは?企業が今、取り組むべき背景と目的
  2. 2.ウェルビーイング経営が注目される理由と定義
  3. 3.ウェルビーイング経営は「人的資本」の何を可視化するのか?
  4. 4.ISO30414と人的資本可視化指針におけるウェルビーイング
  5. 5.ウェルビーイングに関するKPIの設計方法と指標例
  6. 6.ウェルビーイング×人的資本開示の先進企業事例(上場企業中心)
  7. 7.開示を成功させるために必要な社内体制と進め方
  8. 8.まとめ


人的資本開示とは?企業が今、取り組むべき背景と目的

人的資本開示とは、従業員の能力・モチベーション・健康状態など「人財」に関わる情報を、財務情報と同様に重要な経営資源として外部に開示する取り組みです。近年、金融庁や内閣官房が公表したガイドラインに基づき、特に上場企業に対して、人的資本に関する情報開示の要請が強まっています。

この背景には、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)の急速な拡大があります。投資家は、企業の財務情報だけでなく、長期的な成長や持続可能性を評価するために、非財務情報、特に人的資本に関する情報に注目しています。人的資本は、企業の競争力の源泉であり、持続的な成長の鍵を握る要素として認識されているのです。

開示が求められる内容は、従業員エンゲージメント、健康指標、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み、離職率、人財育成に関する施策など多岐にわたります。これらの情報開示は、単なる義務的な対応ではありません。自社の人的資本戦略を明確に示すことで、企業価値の向上、優秀な人財の獲得、投資家からの信頼向上に直接的に貢献します。



ウェルビーイング経営が注目される理由と定義

ウェルビーイングとは、一時的な幸福感だけでなく、身体的、精神的、社会的に満たされた良好な状態を指す包括的な概念です。ウェルビーイング経営とは、ウェルビーイングの向上を経営の重要な柱として捉え、組織全体の持続的な成長を目指す経営手法です。

従来の健康経営が、主に従業員の疾病予防や医療費削減に焦点を当てていたのに対し、ウェルビーイング経営は、従業員一人ひとりの仕事への意欲、キャリアの充実感、組織や社会とのつながりといった、より広範な要素を重視します。従業員エンゲージメントと重なる部分もありますが、ウェルビーイングは個人の幸福感や充実感に、より深く焦点を当てている点が特徴です。

企業がウェルビーイング経営を推進することは、単なる社会貢献活動ではありません。人的資本経営の重要な要素として、従業員の創造性や生産性の向上、組織全体の活性化、ひいては企業価値の向上に不可欠な、持続可能な人財戦略なのです。



ウェルビーイング経営は「人的資本」の何を可視化するのか?

ウェルビーイング経営は、人的資本の中でも特に数値化が難しいとされてきた「見えにくい価値」を可視化する上で重要な役割を果たします。具体的には、従業員の健康状態(ストレスチェックの結果、運動習慣など)、働きがい(エンゲージメントスコア、仕事への満足度など)、離職率、職場の心理的安全性などが可視化の対象となります。

重要なのは、これらの指標を個別のデータとして捉えるのではなく、「資本」として統合的に分析することです。例えば、従業員エンゲージメントの向上は、離職率の低下や生産性の向上につながり、最終的には企業の収益向上に貢献するという因果関係を、客観的なデータに基づいて示す必要があります。

ウェルビーイングに関連するデータは、単なる福利厚生施策の成果を示すものではありません。人的資本への投資対効果(ROI)を評価し、企業の人的資本の健全性を社内外に示すための、戦略的な経営データとして位置づけるべきです。



ISO30414と人的資本可視化指針におけるウェルビーイング

ウェルビーイング経営を人的資本開示と結びつける際、ISO30414(国際標準化機構が2018年に発行した、人的資本に関する情報開示のためのガイドライン)は重要な指針となります。ISO30414では、人的資本の情報開示項目の一つとして「Well-being(ウェルビーイング)」が明確に定義されています。また、「Turnover(離職率)」や「Leadership(リーダーシップ)」も、従業員のウェルビーイングに深く関連する重要な指標として扱われています。

日本国内においては、経済産業省が公表した「人的資本可視化指針」が、ISO30414などの国際的な動向を踏まえ、日本企業が取り組むべき人的資本開示の具体的な方向性を示しています。この指針においても、従業員の健康、働きがい、エンゲージメントといったウェルビーイングに関連する要素が重視されています。企業には、単なる健康診断の結果を開示するだけでなく、「社員がいきいきと働き、能力を最大限に発揮できる状態にあるか」を示すデータを開示することが求められています。

人的資本開示を成功させるためには、単にデータを提出するだけではなく、自社の経営戦略とウェルビーイングに関するデータを結びつける視点が不可欠です。ウェルビーイングの向上に向けた取り組みが、いかに事業の成果や中長期的な企業価値の向上に貢献するのかを、投資家や社会に対して説明できるかどうかが、企業評価を大きく左右します。



ウェルビーイングに関するKPIの設計方法と指標例

ウェルビーイングの状態を可視化し、その向上に向けた取り組みの効果を測定するためのKPI(重要業績評価指標)を設計する際には、定量的な指標と定性的な指標を組み合わせることが重要です。


定量的な指標例:

  • 従業員エンゲージメントスコア:定期的な従業員サーベイを通じて測定し、組織への愛着や仕事への熱意を数値化したもの
  • 離職率:一定期間内に離職した従業員の割合
  • メンタルヘルス休職者数・休職率:メンタルヘルスの不調により休職した従業員の数や割合
  • 健康診断受診率・再検査率:従業員の健康管理への意識を示す指標
  • プレゼンティーズム・アブセンティーズムに関する指標:体調不良による労働生産性の低下や欠勤の状況を示す指標


定性的な指標例:

  • 従業員サーベイの自由記述回答:定量的なデータでは捉えきれない、職場の雰囲気や人間関係、働きがいに関する従業員の生の声
  • 1on1ミーティングにおける従業員のフィードバック:上司と部下の定期的な対話を通じて得られる、仕事の満足度やキャリアに関する意見
  • ピアレビューや360度評価:同僚や部下からのフィードバックを通じて、従業員の主体性や協調性、リーダーシップなどを評価
  • 社内アンケートやヒアリング調査:特定の施策に対する従業員の意見や感動を収集


これらのデータを社内ダッシュボードなどで可視化し、定期的に経営層や関係部署に共有する仕組みを作ることで、ウェルビーイング向上に向けた施策のPDCAサイクルを効率的に回すことができます。単なるデータの収集・蓄積に留まらず、「経営判断に資する情報」として活用することが、KPI設計と運用における重要なポイントです。



ウェルビーイング×人的資本開示の先進企業事例(上場企業中心)

近年、ウェルビーイングを経営の重要な軸として捉え、人的資本開示を積極的に進めている日本企業が増えています。

例えば、味の素は社員の健康を重視した経営が評価され「健康経営銘柄」に複数回選定されており、従業員の健康診断結果やエンゲージメントスコアなどのデータを積極的に開示しています。健康増進に向けた具体的な取り組みと、それらが従業員のエンゲージメントや生産性に与える影響について、投資家に向けて明確に説明しています。

SOMPOホールディングスも社員の健康増進に積極的で、「健康経営優良法人(大規模法人部門 ホワイト500)」に9年連続で認定されています。ウェルビーイングをグループ全体の重要な戦略と位置づけており、ストレスチェックの結果や心理的安全性に関するスコアを人的資本情報として開示しています。

カゴメは独自の健康施策(野菜摂取促進や働く女性の健康支援など)で知られ、経産省「健康経営優良法人2025(大規模法人部門 ホワイト500)」に認定されています。従業員の幸福度調査の結果を開示し、その結果を組織改善のための施策と連動させています。

これらの先進企業は、ウェルビーイングに関するデータを単なる情報開示に留めず、経営戦略の推進や企業価値の向上に活用している点が共通しています。従業員エンゲージメントの向上と企業価値の向上との相関関係を示すことが、今後の人的資本開示においてますます重要になると考えられます。



開示を成功させるために必要な社内体制と進め方

人的資本開示を成功させるには、全社的な協力体制の構築が不可欠です。

まず、担当部門間の連携強化が重要となります。人事部門は従業員に関するデータ収集と分析、IR(投資家対応)部門は開示情報の整理と体外的なコミュニケーション、経営企画部門は人的資本戦略全体の策定と推進において、それぞれ密に連携する必要があります。

データ収集・整備フローの確立も重要なポイントです。従業員サーベイの結果、健康診断データ、離職率、研修データなど、社内に散在するデータを統合的に管理し、「人的資本データベース」として活用できる基盤を構築する必要があります。その上で、データの定期的なモニタリングと開示のタイミングを計画的に管理していくことが求められます。

さらに、経営層の理解とコミットメントが不可欠です。人的資本開示を単なる人事部門の業務として捉えるのではなく、経営戦略の重要な柱として位置づけてもらうために、客観的なエビデンスと具体的なストーリーを組み合わせた情報提供を心がけましょう。データに基づいて経営判断を支援するという視点が重要となります。



まとめ

ウェルビーイング経営と人的資本開示は、これからの企業経営において避けて通れない重要なテーマです。単なる法規制への対応として人的資本開示を行うのではなく、従業員のウェルビーイング向上を企業の持続的な成長と企業価値向上を実現するための重要な要素と捉え、戦略的にデータを開示・活用していく視点が求められます。

一歩ずつ確実に、ウェルビーイングに関するデータを経営の力に変えていきましょう。


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